<中国全人代>「消費拡大」「民間活力」「AI・IT重視」で経済浮揚、「5%成長」目指す―金融・財政政策総動員

八牧浩行    2025年3月13日(木) 13時30分

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全人代が閉幕した。李強首相は施政方針に当たる「政府活動報告」で2025年のGDP成長率目標を3年連続で同じ「5.0%前後」に設定した。

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全国人民代表大会(全人代)が5日から11日まで北京の人民大会堂で開催された。李強首相は施政方針に当たる「政府活動報告」で2025年の国内総生産(GDP)成長率目標を3年連続で同じ「5.0%前後」に設定した。「より積極的な財政政策を実施する」と言明し、内需を拡大して経済を下支えする方針を強調した。重点的に実施する「政府活動の任務」の筆頭に「消費押し上げと投資効果の向上に力を入れ、内需を全面的に拡大する」と掲げた。「消費」という単語が前回の全人代より5割も増えた。

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公表された25年予算案によると、一般公共予算歳出は前年比1兆2000億元(約24兆7000億円)増の29兆7000億元。25年の財政赤字は5兆6000億元で、国内総生産(GDP)の4%前後と24年の3%から引き上げた。財政赤字に参入しない特別国債も5000億元増発し、国有大手銀行への資本注入に活用、不動産不況による企業の経営悪化などのリスクに備える。加えて地方政府が発行するインフラ債の発行枠を拡大する。

金融緩和をさらに進め、政策金利や預金準備率を引き下げる。これらの積極的な景気てこ入れによって家電・家具、自動車など耐久消費財の買い替え補助金などで消費需要を喚起する。

産業政策では民間企業の支援強化、AI(人工知能)の活用による基盤整備促進、マイホーム購入、買い替え需要喚起につなげる。

中国の倪虹・住宅都市農村建設相は9日の記者会見で「不動産市場は下落に歯止めが掛かってきた」と政策効果に自信を示した。中国の不動産は関連産業を含めて国内総生産の3割を占めるとの試算があり、中国経済の大きな下振れ要因となってきた。


科学技術の「自立自強」を推進

習近平国家主席は5日、全人代の江蘇省分科会に出席し、「科学技術の成果を、実際の生産力に転換しなければならない」と号令をかけた。AIなどハイテクを巡り、米中が激しくしのぎを削る中で、国や企業、研究機関など挙国態勢で科学技術の「自立自強」を推進する構えだ。

この分科会で習氏は「科学技術と産業のイノベーションが新しい質の生産力を発展させる」と指摘。「伝統産業の転換・グレードアップの推進と新興・未来産業の創出が重要だ」と訴えた。また「制度の開放を着実に拡大し、国際協力の空間も切り開かなければならない」とも語り、「米国第一主義」のトランプ米政権との違いを際立たせた。

具体的には、科学技術革新と産業革新の融合を推進する上で先陣を切る、徹底した改革と高いレベルの開放を推進する上で率先して取り組む、国の重要な発展戦略を実行する上で先頭に立つ、全国民の共同富裕を促進する上で模範を示す―などを列挙した。

多国間主義を堅持、地球規模の課題に対応

外交安全保障では、台湾独立を目指す分離活動や外部勢力による干渉に反対する、貿易を安定させる政策に注力する、多国間主義を堅持して地球規模の課題に対応する―などの方針を示した。

国防費は前年比7.2%増の1兆7800億元(約36兆7600億円)。今年の防衛費案はGDP比で1.26%にとどまり、日本の昨年の1.30%より低い。米国の24年当初防衛予算GNP比3.26%に比べ相当低い水準だ。

また、活動報告は「新質戦闘力の発展を加速させ国家の主権を断固として守る」と明記。AIなど軍事のハイテク化を強く推進する方針だ。

全人代で5日、記者発表に臨んだ懐進鵬教育相は中国の新興企業が手がけた生成AIアプリ「ディープシーク」の台頭に触れ、「中国の科学技術革新の実力を体現すると同時に、教育を改革し発展させる重要な好機となる」と述べ、人材育成に力を入れる方針を示した。

米中を巡っては、バイデン前政権から続く先端半導体の対中輸出規制に加え、トランプ政権になってからは中国からの輸入品に対する関税引き上げと対中圧力が強まっている。習政権は今回、米国との科学技術競争を最優先課題に位置付けたと言える。

内政では、教育、医療、高齢者、育児サービスの支援、医療保険や年金など社会保障支援の引き上げなどに注力することが打ち出された。

中国の24年の成長率は5.0%で目標を達成。長引く不動産不況や消費低迷で経済の実勢が弱い中で、輸出が底上げした形だ。

外交面でも李氏は「一国主義」を批判し、「中国は国際社会と共に平等で秩序ある世界の多極化と互恵的な経済グローバル化を主導する」と述べ、国際社会の建設的な一員だとアピールした。

グローバルサウスを重視、日本にも接近

また政治協商会議の会見では、欧州とグローバルサウス(新興・途上国)を重視する姿勢が示された。米国の中国への風当たりが強まる中で、日本と欧州に接近する姿勢も示された。日本に対するアプローチも継続されていくだろう。日中両国が戦略的互恵関係を深化させ懸案解決を図る好機になる。

今回の全人代でAIの発展を後押しする中国政権の姿勢が鮮明になった結果、テック株を中心に上海や香港の株式指数が堅調に推移し、投資家の期待をつないだ格好だ。国家発展改革委員会の政府文書に「AI」が多く盛り込まれ、経済発展に向け積極活用することが明らかになった。

また、2月にはアリババ集団創業者の馬雲氏が習主席とテンセントやディープシーク創業者ら民間企業経営者多数が参加する会合に出席。当局がテック業界に対する支援に乗り出したとの期待が高まり、株価上昇に弾みがついた。株上昇は中国自動車大手のBYD、IT大手のファーウェイなどがけん引。自動車、ドローン、太陽電池、AI、スマホ、パソコンなど世界で高いシェアを有している分野も多い。米国のシンクタンクは「製造業ではすでに米国を凌駕し、世界最大の消費生産市場となっている」と見ている。

国際的な投資マネーの流れは、歴史に残るような貿易戦争が始まる兆しや欧州の大規模財政出動、最先端技術開発競争における中国の台頭などを受け、急変しつつある。投資家にとっては、米国から本格的に資金が逃げ出す大転換点となるとの見方も出ている。

トランプ政権の関税など経済政策が国内外に不安を与えている。米国は景気や株価、AI開発などで他国より勝っていると言われてきたが、ここにきて急速に景気後退の恐れが高まり、米株価が下落基調となっている。

6月にトランプ氏と習氏が対面も、大規模ディール展開か

こうした中、世界の地殻変動が起き、日米、米中とも接近する可能性が高まっている。

中国の呉江浩駐日大使は10日、石破茂首相が意欲を示す訪中について「協議している」と明かした。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはトランプ大統領と習主席の首脳会談を6月に米国で実施する案を両国が協議していると報じた。両首脳の誕生月となる6月に「誕生日サミット」を検討しているという。トランプ氏と習氏は旧知の仲で、互いにリスペクトしているとされている。米中首脳会談が開催されれば「大規模なディール(取引)」が展開されるとみられる。

■筆者プロフィール:八牧浩行

1971年時事通信社入社。 編集局経済部記者、ロンドン特派員、経済部長、常務取締役編集局長等を歴任。この間、財界、大蔵省、日銀キャップを務めたほか、欧州、米国、アフリカ、中東、アジア諸国を取材。英国・サッチャー首相、中国・李鵬首相をはじめ多くの首脳と会見。東京都日中友好協会特任顧問。時事総合研究所客員研究員。著・共著に「中国危機ー巨大化するチャイナリスクに備えよ」「寡占支配」「外国為替ハンドブック」など。趣味はマラソン(フルマラソン12回完走=東京マラソン4回)、ヴァイオリン演奏。

※本コラムは筆者の個人的見解であり、RecordChinaの立場を代表するものではありません。

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