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毎年3月15日、中国のテレビ画面には公開裁判さながらの光景が広がる。写真は人気ドリンク店の蜜雪冰城。
中国中央テレビ(CCTV)の「3・15晩会」は企業の不正を暴き消費者保護を訴える告発番組で、世界消費者権利デーの3月15日に合わせて放映され、その影響力は絶大だ。先日の放送では、衛生用品の不正加工や金融プラットフォームの違法行為が明るみになった。
毎年3月15日、中国のテレビ画面には公開裁判さながらの光景が広がる。「3・15晩会」──この特別番組は中国中央テレビが中国消費者協会と協力し、世界消費者権利デに合わせて放送するもので、企業の不正行為を容赦なく暴露し、消費者保護を強く訴える。企業の不正行為が指摘された場合、中国国家市場監督管理総局が調査を実施し、規制措置を講じる。
同番組は1991年の放送開始以来、30年以上の歴史を持つ。ゴールデンタイム(プライムタイム)に放映されるため、1億人以上が視聴することもある。番組で名指しされた企業の情報は瞬く間にSNS上で拡散される。一時的な批判に終わるケースもあれば、これが元で株価の急落や市場シェアの低下につながることもある。そのため、企業は戦々恐々として番組の放送日を迎えることになる。
同番組の反響が消費者保護政策の強化や政府の規制強化につながるケースも多い。中国は2024年に11年ぶりに「消費者権益保護法施行条例」を改正し、同年5月1日から施行した。ライブコマース市場でのトラブル多発を受け、不公平な契約条項の是正、ビッグデータによる価格差別の禁止、自動更新サービスの契約解除の簡易化などの措置が盛り込まれた。
こうした制度改革の背景には、消費者意識の高まりがある。中国中央テレビのニュースアプリの14日付記事によると、24年には97.6%の消費者が何らかの権利保護措置を講じたという調査結果もある。消費者の権利意識を形作り、企業が不正を隠し通すことを難しくさせる上で、同番組が果たしてきた役割は大きい。
15日の放送では、日常生活に直結する企業の不正が明るみに出た。食品安全、公共安全、金融安全、デジタル経済などの分野における消費者権利侵害の実態が告発された。
特に深刻なのは使用済みの原料を再利用した衛生用品の流通だ。本来、正規メーカーが廃棄すべき生理用品や紙おむつの不良品を回収し、選別して「二等品」として市場に流通させる業者が存在していた。さらに、残りの廃棄物は木材パルプなどに分解され、再び衛生用品の原料として使用されていたという。
使い捨て下着も問題となった。生産工場では適切な滅菌処理が行われず、劣悪な環境で作業員が素手で製造していたことが発覚した。強力な洗浄剤を吹き付けるなどの処理をして消費者の目をカモフラージュしていたことも判明した。
このほか、家電修理業界の最大手「啄木鳥家庭维修」が技術者に対し過剰請求を奨励し、消費者に不当な料金を請求する収益構造を示していたことが暴露された。
また、SNSのコメントをスキャンして個人情報を取得し、企業に販売していた業者の存在や、電子クーポンが当選したと消費者に思わせ、実際には少額割引券の提供があるだけで消費者はかえって割高な課金を余儀なくされる詐欺的な手口がやり玉に上がるなど、多岐にわたる問題が浮き彫りとなった。
注意すべき点は、中国市場で活動する以上、グローバル企業も同番組による「審判」を免れないことだ。過去にはアップルのアフターサービスにおける不公平な対応が問題視され(2013年)、ティム・クックCEOが謝罪した例がある。
また、フォルクスワーゲンは同年、DSG(デュアルクラッチ)変速機の不具合を指摘され、大規模リコールを実施した。2017年には、ナイキの一部製品が中国市場で虚偽の広告表示を行っていたと批判された。日本企業については、原産地表示や現地対応の不備などがやり玉に上げられたことがある。
日本で消費者意識の向上に重要な役割を果たしてきたメディアとして、『暮しの手帖』が広く知られている。戦後間もない時期、広告収入を一切受け付けずに創刊し、製品テストを独立した立場で行い、公正な評価を発信したことが、日本製品の品質向上につながった。中国の国営メディアによる「3・15晩会」とは位置づけが異なるが、消費者の味方として、より安全な消費生活の実現に貢献してきたという点では、両者には共通点があるかもしれない。
昨今、「消費ダウングレード」と呼ばれるトレンドの下、価格競争が顕著になっている。一方で、環境保護やサステナビリティーを重視する若年層の動きもある。こうした趨勢の下、企業はいっそう厳格な監視の目にさらされている。法遵守と透明性の確保を通して、安全・安心はもとより消費者の多様なニーズに対応していくことが求められている。
最後に、飲食品の品質管理問題を抱えていたことが判明しながら、「3・15晩会」のブラックリスト入りを免れた著名ブランドのことも取り上げておこう。
それは、香港証券取引所に上場したばかりの蜜雪冰城(ミーシュエ)だ。湖北経視(経済チャンネル)の「3・15特別番組」で湖北省の店舗で前日のカットフルーツを使用するなどの不正行為が報じられたが、これに対しても消費者の反応はことのほか寛容だったと話題になっている。
「低価格なのに本物のフルーツを使っている」と冗談交じりに蜜雪冰城を擁護する声は多い。他の深刻な食品問題と比べれば「取るに足らない」問題と考える傾向さえ見られる。
「36氯Pro」の微信(ウィーチャット)公式アカウントなどの記事によると、親しみやすいマスコットを活用したブランド戦略や、2021年に鄭州で発生した水害の際に2600万元(約5億2000万円)を寄付するなど積極的な社会貢献活動に従事してきたことが、蜜雪冰城が消費者の信頼を勝ち得る上で有利に働いたとみられる。
また、創業者が食品安全の重要性を早くから認識し、自社工場の設立による供給体制の安定化に注力していることが消費者の好感につながり、それがブランド価値の向上を後押ししているとも指摘された。(提供/邦人Navi)
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