<コラム>香港基本法ににじみ出る中国政府の「言うこととやること」の落差

如月隼人    2017年5月2日(火) 23時10分

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香港は7月1日、英国からの中国返還20周年を迎える。本来ならば祝賀ムードが高まっておかしくないのだが、どうもそうはならないようだ。写真は香港の区旗と中国国旗。

ところで、王部長が「中華人民共和国憲法」と「香港基本法」を論じたことで、別のことを思い出してしまった。実は中華人民共和国憲法にも「中華人民共和国公民(国民)は言論、出版、集会、結社、行進および示威の自由を有する」(第35条)と明記されているのだ。

そのため、2013年ごろには「憲政」を要求する声が出始めた。当局に対して憲法を遵守して言論などの自由を認めよとする主張で、現実には自由を大きく制限している共産党政権の「矛盾」を突いた民主化要求だった。

中国共産党は神経質に反応した。さまざまな手法で「言論の自由を求める言論」を排斥。共産党機関紙の人民日報は14年10月30日付で、「なぜ、党の厳格な統制を励行するのか」と題する論説を掲載。「世界のどの国も、ばらばらになっていては法治も現代化もできない」、「共産党の指導がどっしりとした泰山のごとく、しっかりと安定していることが必須」などと主張し、憲政要求は「下心がある者の人を惑わす銃だ」と決めつけた。ただし憲政要求論者の「共産党が法治主義と主張するなら憲法を守らねばならない」との主張に対する直接の反論はできていない。

さて、香港基本法に話を戻そう。市場経済を導入したとはいえ、中国は社会主義国家だ。だから、香港で資本主義体制を維持すると明記するのは当然だろう。しかし、香港基本法に住民が享受するさまざまな自由を細々と盛り込んだのは、考えてみれば不自然だ。

香港基本法は1980年代後半に起草作業が始まった(全人代における法案可決は90年)。大陸側の36人、香港側の23人が作業に参加した。香港側はそれまで享受してきた自由を失いたくはない。中国政府は西側諸国では通常認められる各種の自由を厳しく制限している。だからこそ、憲法がすでに保証している自由についての定めを、基本法でも改めて明記して「担保した」と理解できる。

しかし、「香港基本法」でも定められた香港における言論などの自由がどこまで確保できるかは、かなり微妙な情勢になってきた。2015年から16年にかけては、中国政府に批判的な内容や要人についての「暴露本」などを扱う銅鑼湾書店の店長など5人が数カ月にわたり失踪する事件が起こっている。いずれも中国当局に拘束され、顧客リストを渡すようなどと要求されていたとされる。

香港住民は広範囲にわたる自由についての権利を憲法と香港基本法で二重に保証されているが、返還後20年を前にして、すでに「揺れ動く状態」になっていると言わざるをえない。

■筆者プロフィール:如月隼人

日本では数学とその他の科学分野を勉強したが、何を考えたか北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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