木口 政樹 2019年1月11日(金) 18時40分
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韓国のNHKにあたるKBSの時事番組「チャン」をはじめ、今韓国では北朝鮮を扱うニュースや時事番組が多い。写真は米朝に関する韓国の報道。
米国大統領の第一の仕事は、海外にある米軍人の遺骨を地の果てまで行っても持ち帰ってくることだという。これをやれば大統領の人気が無条件にあがる。トランプ氏に喜んでもらえるよう、朝鮮戦争での米軍人の遺骨を50体も返還したのだ。北としてはやることはやったという気持ちは強い。それに対して米がなにもしてくれない。シンガポール会談では(これぐらいのことをすれば)何かやってくれると約束してくれていたのに、なにもない。米は立場を変えてきているといういらついた気持ちが北にはある。
ところで米の立場はまたちょっとちがう。12月のCNNニュースでもやっていたが、北が今も核開発をやっているというもの。トランプ氏が金氏に騙されているとみている人も多いという。
なんの確認もせずに軍事訓練をやめたじゃないか。北は軍事訓練の規模を全然縮小していない。トランプが核リストなしに制裁緩和に踏み切れば米の世論の反発があがることは必至。北は北で米が約束を守っていないというし、米は米で北が今もって核開発をやりつづけているという。ところで、北だけが米を騙してきたというのは真実ではない。約束を守らなかったのは北だけではなく米も同様の部分がかなりあるのだ。今必要なのは相互の信頼を築くこと。
寧辺(ヨンビョン)の核施設に4回も入った米のジークフリート・ヘッカー博士のコメントがあった。この人は世界的にも有名な核学者である。
ヘッカー博士は、2018年9月の3次南北首脳会議の場で米朝関係が膠着状態に陥ってから金正恩氏が出したカードに注目する。ヨンビョンの核施設を廃棄するという提案を金正恩氏が出したもの。これを米は素直に受け入れることだとヘッカー博士は強く訴える。
もちろん核施設はヨンビョンにだけあるのではない。核リストを出せと米は言っているわけだが、核リストを1回米に渡せば、核施設がどこにあるかわかるため米の攻撃に遭う可能性が高くなる。核リストを渡したあとで、米が何らかの制裁の緩和をしたあとまた関係をこじらせて制裁を続けるとなった場合、北の核リストは戻してくれよといっても後の祭りだ。情報というのは一度知らしめたらそれでジ・エンドだ。
しかし米の制裁緩和というカードは、性格が全く違う。米と北の折衝においては、北のほうが圧倒的に不利な商売なのだ。この点を米は十二分にわかっていながら、なかなか制裁の緩和に踏み切らないでいる。
ここからが筆者の意見だけれど(ヘッカー博士の発言を土台として)、北朝鮮と米国との現在の膠着状態を解いて行く道程としては、2018年9月に出されている北のヨンビョンの核施設の廃棄という条件を米は受け入れ、なにがしかの制裁緩和を行なう。
次にまた別の核施設やミサイルの廃棄などをやると北が言ったら、米はそれを受け入れ緩和する。そしてまた別の段階へ。
こうした過程を一歩ずつ踏みながら、米と北がお互いに信頼を築き上げていくなかでこそ、北の非核化という偉大な内容が実現されていくものだと思う。一度に全ての核施設のリストを出せと言っても、北としては到底そんなものは出せるわけがない。
上述したように、この情報は一度出したら取り返すことができないのだから。一つずつ、雪道を歩むように踏みしめるように双方にはやっていってほしい。韓国と中国はそれをバックアップしてやる。
これを書いている1月11日現在、金正恩氏は中国を訪れ、習近平(シー・ジンピン)国家主席と深度ある会談を行ない北に帰っていった。朝鮮半島の非核化というテーマでは一致しているらしい。
金正恩氏の新年の辞にも、「完全な非核化への道は自分と党の確固たる意志である」とはっきりと明言している。
2018年9月に出されたヨンビョン核施設の廃棄という北からの提案に米は未だなんの回答も寄せていない。2019年、米朝の第二次首脳会談がそろそろ開かれる状況になってきているが、この会談が実現するなら、テーマは米の回答(制裁のなにがしかの緩和)ということになる。
2018年6月のシンガポール会談後の、この煮え切らない膠着状態に解決が与えられるのか。膠着状態が長く続いていいことはない。米朝首脳会談の気運は熟してきている。このチャンスを生かしてほしい。チャンスを生かしきれないと、待っているのは大いなる負のお荷物だ。米朝、そして韓国、中国の動きに注目していきたい。
■筆者プロフィール:木口 政樹
イザベラ・バードが理想郷と呼んだ山形県・米沢市出身。1988年渡韓し慶州の女性と結婚。元三星(サムスン)人力開発院日本語科教授、元白石大学校教授。趣味はサッカーボールのリフティング、クラシックギター、山歩きなど。著書に『おしょうしな韓国』、『アンニョンお隣さん』など。まぐまぐ大賞2016でコラム部門4位に選ばれた。 著書はこちら(amazon)Twitterはこちら※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。
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