如月隼人 2018年12月1日(土) 21時10分
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日本の学校では、中国の地名をカタカナで覚えさせるのですね。日本人生徒が、中国の地名をカナ書きで覚えて、中国人に通じるのか。前に1回、試したことがあります。写真は成都双流国際空港。
日本では中国地理の教育で、妙な点はまだある。北京を「ペキン」と書いている。北京の中国語(標準語)読みは「Beijing=ベイジン」です。「中国語発音に準じて教える」との原則があるなら「ペキン」は採用できないはすだ。
まあ、国外で長く「Peking」と呼ばれてきたことを知っている中国人なら理解できるでしょうが、そういう知識のない中国人には分からないと思う。
厦門は「アモイ」とされている。中国語標準語では「Xiamen=シアメン」です。「アモイ」では理解できない中国人が「ペキン」以上に多いのではないか。
日本人の生徒に中国地名をカナ読みで覚えさせる利点としては、中国人以外に分かりやすいということもあるでしょう。例えば英語話者ですが、彼ら/彼女らは、ローマ字表記で中国の地名を知るわけですから。
ただ、そうだとしても日本の地理教育にはおかしなことがある。例えば、湖北を「フーペイ」としている。中国語ローマ字表記では「Hubei」です。
ここで行き当たる問題は、中国語の発音が、言語学音声論で「濁音はなく清音だけ」とされていることです。ただし、清音の中で息を強く吐く「有気音」と、息を弱く吐く「無気音」の違いです。
これも前に実験したことがあるのですが、中国語の学習経験のない日本人の場合、中国語の「無気音」は、日本語の濁音として発音してもらった方が、中国人は「無気音」として認識しやすいようです。中国語の「有気音」を清音で発音して、「有気音」として聞き取ってもらえるかどうかはやや微妙ですけど。
例えば、中国語の「da」を日本人が「ダー」と発音すれば、まず間違いなく「da」と認識してもらえます。「da」と対応関係にある有気音の「ta」を日本人が「ター」と発音した場合、中国人に「ta」と聞き取ってもらえるのは五分五分といったところでしょうか。このあたりは、中国語を学びはじめた日本人の皆さんにも参考になると思いますが、有気音を発音する場合、例えば「ta」ならば「ッター」と舌による破裂を思いっきり強くするのがコツです。最初は不自然な発音になるかもしれませんが、慣れれば標準的な「ta」を発音できるようになるはずです。
ええと、話がそれました。湖北を「フーペイ」と覚えさせる問題でした。ローマ字圏では、中国語がローマ字表記されるわけです。ですから、湖北はHubeiと書かれ、カナで書くなら「フーベイ」に近い音で発音されます。
日本における中国語カナ表記には、「中国語には清音しかないのだから、カナ表記でもテンテンなしに統一」という流派と、「無気音にはテンテンを用いる」という流派があります。純粋に学術上なら「テンテンなし」とすべきかもしれませんが、実用面を考えると、そうとは言えません。
日本の学校で中国の地名をどうしてもカナで覚えさせるというなら、その意義はなんでしょう。私にとって思いつくのは「中国語圏外の人との意思疎通が容易になる」ぐらいです。これは結構、重要な問題でして、例えば「習近平」を「しゅうきんぺい」と発音しても日本以外では全く通じません。「Xi Jinping=シー・ジンピン」と言わねばなりません。
ただ、今の日本の地理教育は、そのあたりも実に中途半端です。中国語発音についての洞察が、まるで甘い。貴州省の貴陽は「コイヤン」とされていますが、中国人に対しても、その他の外国人に対しても「コイヤン」と発音したのでは、通じにくいだろうなあ。貴陽のローマ字表記は「Guiyang」で、カナ書きするとすれば「グイヤン」が近い。もっと正確に言えば「Gui」の部分には弱く発音する「e」が存在して「グェイヤン」です。
「Gui」の発音規則については、中国の発音の教科書でも「e」の表記の省略がきちんと説明されています。ただし、ローマ字表記に引きずられて「グイヤン」のように発音する人が多い。一方、台湾では「グェイヤン」に近い発音をする人が多いと聞きます。
台湾では戦前に採用された独自の発音表記である注音符号(通称、ボポモフォ)が使われており、「貴」の発音は注音符号をローマ字に転写するなら「g+u+ei」となることが、「貴陽」が「グェイヤン」のように発音される理由と考えられます。
いずれにせよ、「コイヤン」のような発音をする中国人にはお会いした人がない。中国人にも通じにくく、中国人以外にも通じにくい中国語地名を教える日本の地理教育には「一体、なんじゃいな」と思わざるを得ない次第であるわけです。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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