如月隼人 2019年1月21日(月) 23時20分
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日本には、「現行犯逮捕」といった制度がありますが、中国にはありません。警察官が犯罪行為を目撃しても<逮捕>はできないわけです。写真は中国の警察官。
中国で発生した事件で、容疑者が拘束された場合に「逮捕」と表現してよいかどうかは、かなり微妙です。犯罪行為を行ったことがほぼ明らかであり、捜査当局が身柄を拘束して取り調べなどを行うという現象面に注目すれば「逮捕」と“意訳”してよいとも思えますし、日中で同じ漢字を使うだけに「まだ逮捕ではない」との考え方も成立します。私自身は、中国の制度をご存じの読者の混乱を避けようと思い、「身柄を拘束」と書くことにしています。
警察が容疑者を<刑事拘留>できるのは14日間で、警察は取り調べやその他の証拠集めを行い、必要と判断すれば<逮捕>の許可を申請します。状況によっては<刑事拘留>の期間を延長することも可能ですが、最長でも37日間で、それまでに<逮捕>が認められなければ、容疑者の身柄を釈放せねばならないというのが規則です。
さて、中国には<刑事拘留>以外に、<行政拘留 xing2zheng4 ju1liu2>あるいは<治安拘留 zhi4an1 ju1liu2>と呼ばれる制度があります。<刑事拘留>と<行政拘留>の最大の違いは、<刑事拘留>が取り調べのための身柄の拘束であるのに対し、<行政拘留>は「処罰」であることです。
例えば警察官などによる違法行為に対する措置で、最も軽いものは<警告>とされています。記事では「警察官は<警告 jing3gao4>と<教育 jiao4yu4>を行った」なんて記述がよく出てきます。
それより一段階重い措置が<罰款 fa2kuan3>(罰金)です。重大な違法行為の場合には裁判を行いますが、<罰款>よりも重い処分が必要で、裁判を行うまでではない程度、という場合に、この<行政拘留>が科せられます。
<行政拘留>の期間は通常は10日以内で、最長でも15日間とされています。短期間の自由刑(受刑者の自由を奪う刑罰)ですが、裁判所ではなく警察が科すという特徴があります。中国では<行政拘留>の適用が多く、例えば窃盗犯でも初犯で被害金額がそれほど大きくない場合は裁判なしの<行政拘留>で終わる場合が一般的であるようです。
中国ではさらに<司法拘留 si1fa3 ju1liu2>という制度があります。これは、行政訴訟法や民事訴訟法で定められている制度で、行政訴訟や民事訴訟を妨害する人物に対して<法院 fa3yuan4>(裁判所)が科すことのできる身柄拘束の措置です。最長で15日間であり、適用対象者が十分に反省していると認められる場合には最初の決定よりも短い期間で釈放される場合もあります。逆に、悪質な場合にはさらに厳しく刑事責任を追及される場合もあります。
なお、「拘留」という言葉は、日本語においても注意が必要です。というのは「勾留」という紛らわしい用語があるからです。日本における「拘留」は、刑罰の一種で身柄を1日以上30日未満の範囲で拘束することです。もちろん、「拘留」を科すには裁判所による判決が必要です。一方、「勾留」とは逮捕されてから判決が出るまでの間に、被疑者(被告)を施設に収監することです。
制度やその運用、背景にある「法哲学」はずいぶん違いますが、簡単に理解するためなら、日本の「勾留」は中国の<刑事拘留>に、「拘留」は<行政拘留>に近い性格を持つと言ってよいでしょう。
ピンインの表記について:本コラムでは中国語を<>の中に、日本語の常用漢字の字体で表示しています。以下の部分のピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。 u の上に2つの点を添えるピンインには v を用います(例:東西=dong1xi0、婦女=fu4nv3)。
■筆者プロフィール:如月隼人
1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。 Facebookはこちら ※フォローの際はメッセージ付きでお願いいたします。 ブログはこちら
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