日中の科学技術は「国際協力」の時代へ―梶田隆章(東京大学宇宙線研究所所長・東京大学教授)

Record China    2019年5月9日(木) 15時20分

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梶田教授は、素粒子の一種であるニュートリノが質量を持つことを示すニュートリノ振動をスーパーカミオカンデ(東京大学宇宙線研究所が運用する世界最大の宇宙素粒子観測装置)での測定で発見、従来の理論を超える考え方を示し、2015年にノーベル物理学賞を受賞した。

梶田:確かに21世紀になって、日本人のノーベル賞受賞者が多く生まれています。ただ、そのほとんどの方の研究は20世紀の、1980年代とか90年代に行われたものだと思います。あるいはもうちょっと前かもしれません。20世紀の後半は、日本が割と経済的に余裕ができて、研究者も余裕を持って、自由にのびのびと研究ができた時代だったのではないかと思います。ノーベル賞受賞に結び付くような、一定の成果につなげるためには、長年の地道な研究が不可欠ですが、私の研究生活を振り返ってみても、それが出来た時代でした。

しかし、残念ながら、日本は21世紀になって、社会情勢を反映してか、無駄を排除しようという雰囲気が大学にも入り込んできました。日本では国立大学が法人化された2004年から2017年までの間に、大学の運営のための基盤的経費である運営費交付金が大幅に削減されています。しかも、日本政府の掛け声としては、大学を競争的な環境に置いて、それぞれの大学を競わせることによって成果がより出てくるだろうという、そういう考えに基づく政策をとっているようです。

その結果、研究者や大学にいる人間に余裕がなくなり、あまり時間をかけるような研究ができなくなってきています。ですから、今後は、大きい科学的なブレークスルーはなかなか難しくなり、これまでのようにノーベル賞受賞者を輩出するのは難しくなると思います。


<日中科学技術交流の未来>

――中国の研究開発のレベルは、経済の発展とともに大きく変わって、研究開発費もアメリカに次いで世界第2位になっています。研究者の数はアメリカを抜いて世界一です。日本と中国の科学技術の現状について、どう考えておられますか。

梶田:おっしゃるとおりで、やはり科学技術を発展させるためには、それなりの資金が必要であり、これは残念ながら避けられない現実だと思います。

中国ですが、科学技術に対するお金のかけ方がすごいので、本当に驚いています。その規模は2000年を100としたとき、2015年には10倍以上です。韓国も474と5倍近くですが、日本は106と現状維持のままです。

日本では、国としてかける研究開発予算が増えていないということは、基礎的な研究あるいは開発で、近年はそれほどいい成績を残せていないということになると思います。それに比べて中国の場合、研究全体については、論文数で見てもすごいです。私がやってきたニュートリノ研究でも、中国の近年の活躍には目覚ましいものがあります。

――日本が、現在の中国と科学技術協力を行う必要性を、先生はどう考えておられますか。

梶田:今後は、やはり中国が科学技術において重要な国になっていきますので、恐らく日本と中国の科学技術の協力は、これまで以上に強くなるのではないかと思います。

私自身は、スーパーカミオカンデ(1996年稼働)でニュートリノ研究をやってきましたけれど、そこには中国の方にも参加してもらっています。それから今、「重力波」という分野で、新たな装置「KAGRA」(大型低温重力波望遠鏡)を、同じ神岡の地につくっていますが、そこにも中国の複数の大学から研究者に参加していただいています。そういうふうに、以前も今も一緒に研究をやっています。日中間での科学技術交流は、このまま順調に進んでいくのではないかと思います。

つまり、私たちの分野で言えば、「国際競争」ではなく「国際協力」をしなければ次の段階まで進めないということがあります。例えば、「KAGRA」は世界トップクラスの重力波観測装置ですが、こうした施設は地球上の離れた場所に3台以上あるのが理想的なのです。そのため、KAGRAは東アジアの施設として、東アジアの研究者を中心として国際協力で研究を進めるべきです。

――今年の6月、中国から習近平国家主席が来日する予定ですが、彼が就任後、何度も強調している言葉が「イノベーション」です。

梶田:習主席の来日によって、日中の関係が強くなるというのは素晴らしいことです。また、「イノベーション」を強調され、実際に中国ではどんどんイノベーションが起こっているのは本当に素晴らしいことだと思います。(提供/人民日報海外版日本月刊)

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