<書評>信念貫くことで「動かぬはずの山」が動いた=小島康誉著「21世紀は共生 国際協力の時代」

如月隼人    2021年5月16日(日) 13時0分

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小島康誉氏は新疆の地では極めてよく知られ、尊敬されている人物という。本書では、小島氏の新疆、そして中国とのかかわりが、当事者の視点から語られている。

本書はこれまで小島康誉氏が書き溜めて来たコラムをまとめた一冊だ。その関係で若干の重複はあるが、小島康誉氏という一人の日本人が中国、特に新疆ウイグル自治区とどのようにかかわり、どのように努力を重ね、どのような成果を出してきたかがよく分かる。

まず小島氏の足跡をたどってみよう。1942年に名古屋市で生まれた。そして66年に宝石専門店を起業し、その会社を上場企業に育てた。時代を考えれば、24歳前後の若者の会社立ち上げは、かなり思い切った決断だったのではないか。しかもその会社を上場企業にまで育て上げたということは、ビジネスマンとしても大きな実績を上げたことになる。

86年には中国四大石窟とされるキジル千仏洞を訪れ、「人類共通の文化遺産」と直感した。現地では、今では想像も難しいほど貧しい生活の中で、人々が遺跡を守ろうと懸命だった。そして小島氏は、日本で浄財を募り1億円を寄付すると宣言した。当時の中国としては「度肝」を抜く金額だった。新疆文化庁庁長をはじめ、その場にいた人が声を上げて驚いたという。

ビジネス界で実績がある小島氏にとっても1億円を集めることは容易でなかった。しかし約束通り、89年8月末までには寄付を完了した。

その他にも興味深いエピソードが多く語られているが、このあたりで、本書から伝わってくること、そして小島氏が本書で伝えようとしたこととは何かを考えてみたい。

小島氏は、自ら立ち上げ育んできた企業の経営者を96年に退任した。そして、すでに手掛けていた新疆の仏教遺跡の調査保護活動などで、中国を150回以上訪問。94年には、中国国家文物局(文化庁)から新疆ニヤ遺跡について、中国側と共同で調査する許可を得ている。国家文物局令による外国隊への発掘踏査許可は初めてだったという。これは、小島氏が中国側の信頼を完全に得ていたことを示すものだろう。小島氏は、自らの信念にもとづく実践を、あくまでも継続した。だからこそ、現地の人々は小島氏の信念を理解し、支持するようになったのではないか。

小島氏が直接にかかわったのは、主に新疆のさまざまな遺跡の調査や保護活動だ。しかしもう一つ、忘れてはならないことがある。80年代から現在までの日中関係は「順風満帆」とは言えない状態だった。協力の機運が高まる時期もあれば対立が高まる時期もあった。現在は両国の対立が高まっている時期だ。しかし小島氏は、政治問題には関係なく自らの姿勢を貫きつづけた。互いに協力し合うことが、必ずや双方にとってよい結果をもたらすとの信念があるからだ。

本書をこの時期に出版し、書名を「21世紀は共生 国際協力の時代」としたことには、「よくない時こそ、声を出すことが大切」との小島氏の信念が込められているという。

ここまで書いてきて、中国に伝わる「愚公、山を移す」という物語を思い出した。愚公という老人が自宅近くの山を邪魔に思い、家族総出で山を崩し始めたという話だ。「できるはずがない」と笑う人がいた。愚公は「山は増えない。子々孫々に渡り作業を続ければ、いつかは山を移せる」と答えた。

私の心の中では、小島氏と愚公が重なり合ってならない。「愚公、山を移す」では、愚公の志に感じ入った天帝が山を移したことになっている。小島氏にとっての「天帝」とは、新疆をはじめとする中国側の理解者ではなかっただろうか。いくら正しい信念を持っていても、特に現地が外国ならば、自分の力だけでその信念を実現することは難しいだろう。小島氏が信念を持ち、その信念を貫く強固な志があったからこそ、「動かないはずの山」が動くことになったのではないだろうか。「愚公、山を移す」の場合には、山を移した主体は天帝で、小島氏の場合には現地の人との協力によって「山を移し続けてきた」という違いはあるが。(翻訳・編集/如月隼人

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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