吉田陽介 2023年1月31日(火) 6時0分
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中国ビジネスを語る場合、中国の体制やその他の要因からくる「チャイナリスク」論がよく聞かれる。その際、「次はインドの時代だ」という声がある。
ただ、現在のインドの市場は依然として国内がメインで、輸出額はGDP総額の12%程度にすぎない。そのため、輸入代替戦略によって、自国での生産を促し、自国ブランドを強くしていくのは国情に合っている。かつての日本も自国産業の保護を重視し、全面的な対外開放を行わなかった。中国の場合は、改革開放前は国際環境の影響を受けて閉鎖的な自力更生路線を歩んでいたため、改革開放後は「外資頼み」のような状況になったが、現在は軌道修正されている。
「呉暁波チャンネル」記事は、「自国の製品が国内需要を満たした後、貿易障壁を徐々に崩していき、輸出に弾みがついた時こそ、インドが本格的にテイクオフする時だ」と分析する。
インドは、輸入代替戦略によって、自国製造業を着々と発展させているが、問題点もある。
1月1日に中国のネット上に「老讁仙」なる人物が発表した記事はインドが中国に代わって「世界の工場」になる上で直面する問題として、次の四つの点を挙げている。
一つ目の理由は、インドへの投資は「掛け声」だけで、実行されたものは少ないことだ。インドへの投資は有望だと言われているが、外国企業はどこまで本気か分からず、この10年、外国の直接投資はGDPの2%に過ぎないと記事は分析する。
二つ目の理由は、インドのインフラ整備は中国に比べてはるかに劣っていることだ。
中国のインフラ建設は、景気刺激策として行われ、過剰生産力を生み出すものというイメージがあるが、高速鉄道の発展ぶりを見れば分かるように、質の良いものを生み出している。記事は、インドの製造業が現在の中国のレベルに達するにはまだ時間がかかるとしている。
三つ目の理由は、インドの製造業は中国ほど整っていないことだ。
「老讁仙」記事によると、中国は製品の製造に必要な原料をほぼすべて中国国内で調達できる広範なバリューチェーンの構築に成功しており、中国は低コストで大量生産を可能にしている。それに対し、インドにはまだその能力がなく、10年かかっても難しい。
四つ目の理由は、インドの製造業が自社製品を無原則に保護し、外国製品の流入を制限したことだ。
インドが外国部品の関税引き上げを強化したのは、企業が工場をインドに移転し、同国の国内市場で材料を購入するのを促すのが目的だった。ただ、多くの分野の先進的な製品は、一般的に、世界で最も競争力のあるメーカーからの数百から数千の部品で構成されている。インドがこうした部品に高い関税を課すことは、現地への投資を目指す企業の投資意欲を削ぐことにもつながる。記事は、このやり方は、自国の立ち遅れた生産能力を保護し、外国製品を差別的に扱うため、中国ほど開放的ではないとしている。
以上のような問題はあるが、これは発展の途上で見られるもので、生産力の発展につれて、改善されていくと考えられる。また、中国は「スマートシティ」「スマートホーム」など、よりレベルの高い製品へのニーズがあり、製造業はより高度な製品を生み出す方向にあり、中国がよりレベルの高いものを製造し、インドがそれより1ランク落ちるものを作るようになることも考えられる。
ただ、インドには重要な生産要素の一つである資本が海外から流れており、それが経済発展を押し上げている。
ここ2年間のインド経済の発展は、主に外商投資(外国企業・外国人投資家による投資)の急増によるものだ。2021年、インドの外資吸収額は前年同期比76%増の836億ドルで、過去最高となった。
これらの資本は主にコンピューター、通信、自動車、製薬などの新興産業に流入している。インドはここ数年で、1000億ドルの外商投資を誘致し、高速ネットワークの整備も加速されている。これにより、インドのネットユーザーが急増し、現在では7億人を超えている。インドのインターネット利用者は2025年に8億5000万人を突破すると予想されている。このことから、インターネット分野がインドの優位性の一つになると考えられる。
中国もインターネット産業が発達しており、今後はその面でインドとの競争になるだろう。
前述の輸入代替戦略は「自力更生」のようなイメージがあるが、モディ政権は自国の製造業発展のためにさらなる政策を打ち出した。
2020年に、同政権は「生産連動型インセンティブ(略称PLI)」政策を打ち出した。インドは「輸入代替」に続いて、中国などへの依存度を減らすために、自国の製造業チャンピオンを育成しようとした。
PLI政策のもと、インド政府は自動車、半導体、太陽光発電、医療機器など14の主要産業を支援するために260億ドルを拠出した。とくに電子部品と半導体の促進に関するプランを打ち出し、半導体企業がインドで工場を建設するようにし、バリューチェーンに組み入れられ、さらに資本集約的な段階に入るようにした。
これを見ると分かるように、インドがとった政策は「自力更生」と言えるものだ。だが、中国がかつてとったそれとは少し違う。
中国の「自力更生」路線は冷戦という国際情勢の中で打ち出されたもので、他国に頼らずに自国の産業を自前で発展させていくというものだ。当時の中国は発展途上国のレベルであったため、完全に自力で経済建設を行っても限界があった。当時の中国の「自力更生」はイデオロギーが先行していたものだった。
以上の相違点があるが、中国とインドの「自力更生」は「比較的整った基礎工業システム」を有するという共通点もある。
中国は1950年代初めに、ソ連の援助で重工業の発展に力を入れた。50年代半ばに重工業偏重のソ連モデルが見直されたが、当時築いた基礎工業システムは改革開放期に労働集約型産業を急速に発展させる基盤となった。
インドも建国当初はソ連の援助を受けて、比較的整った工業システムを構築した。今日、インドの鉄鋼生産量は世界2位、自動車生産量は世界4位、化学工業と医薬品も世界的に有名だ。インドは工業システムの構築に通じており、GDPに占める工業付加価値の割合が高くないが、中南米の早すぎる脱工業化の罠には陥らなかった。
重工業と資本集約型の基礎工業を発展させて、労働集約型の加工貿易を発展させ、ついにはハイテク分野も発展するという中国の発展パターンをインドも歩んでいると言える。
政府が強力なリーダーシップを発揮して経済発展を促すのは、東アジアに見られることで、「東アジアモデル」として知られている。日本にも、韓国にも同じような傾向が見られた。中国もまた然りである。
中国とインドについていえば、「東アジアモデル」に見られる面もあるが、市場経済を発展させる大国の発展パターンと見ることもできる。インドが中国に代わって「世界の工場」になるという見方も、発展パターンにある程度の共通性があるからだと筆者は考える。
■筆者プロフィール:吉田陽介
1976年7月1日生まれ。福井県出身。2001年に福井県立大学大学院卒業後、北京に渡り、中国人民大学で中国語を一年学習。2002年から2006年まで同学国際関係学院博士課程で学ぶ。卒業後、日本語教師として北京の大学や語学学校で教鞭をとり、2012年から2019年まで中国共産党の翻訳機関である中央編訳局で党の指導者の著作などの翻訳に従事する。2019年9月より、フリーライターとして活動。主に中国の政治や社会、中国人の習慣などについての評論を発表。代表作に「中国の『代行サービス』仰天事情、ゴミ分別・肥満・彼女追っかけまで代行?」、「中国でも『おひとりさま消費』が過熱、若者が“愛”を信じなくなった理由」などがある。
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