次期冬季五輪開催地の中国、急増するスキー場と国民の「安全リスク」

月刊中国ニュース    2018年3月6日(火) 20時10分

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平昌オリンピックも終わり、次期冬季五輪開催地・中国に注目が集まるなか、スキーヤーの事故が増えている。そこにはスキー場の安全対策、無茶をする初心者など、いくつもの問題がある。写真は北京南山スキー場で研修を受けるスキーインストラクター。

昨年2月3日には、河北省ケイ台市(ケイ=刑のへんにおおざと)巨鹿県の三昌スキー場でコースの崩落事故が発生し、5人が負傷したが、巨鹿県安全生産監督管理局が調査したところ、そのスキー場は開業したばかりで、建設・運営に関する手続きを何ひとつ済ませていなかった。事故が発生したコースも、足場を組んだだけの間に合わせのものだったことが判明している。

【安全対策と救助体制の立ち遅れも】

胡楊さんにとって不幸中の幸いだったのは、コースの端から数十センチ手前で体の回転が停止したことだ。もう少し勢いが強ければ、コースから飛び出して、7、8メートル下まで転落していただろう。

だが、誰もが彼のように幸運なわけではない。太舞スキー場で事故に遭った10歳の男児の場合、発見時にはコース右側の崖下に倒れていた。のちに、子どもの父親である関さんはネット上で、スキー場に潜むさまざまな危険性を糾弾する文章を発表した。

なかでも最も関心を集めたのが防護ネットの設置についてだ。2005年公布、2013年改訂の「中国スキー場管理規範」第28条は、「危険源が明らかに露出する区域」および「コース脇が急峻な地形となっている区域」にはネットを取り付けなければならず、「ネットの高さは1.5〜2メートルとすること、通常オレンジ色とし、支柱は弾力性があること、ネットと障害物との間に一定の安全距離を設けること」と規定している。

関さんは「息子が事故を起こした場所は地勢が険しく、崖下にはごつごつした石や木片などがむき出しになっていたが、スキー場はコース両側にネットを設置せず、鉄骨と木材でできた、衝撃を緩和できない柵しか取り付けていなかった。柵の金属支柱に衝突すれば、重傷を負いかねない。しかも、柵の下側と雪面との間に1メートルも隙間があり、事故後の現場検証で、息子はこの隙間からコースを飛び出し、崖下に墜落したことがわかった」と指摘する。

コース両側に防護ネットを取り付けるべきかどうかについては、業界内でも議論が存在する。「自然の景観を台無しにしてしまうので、必要以上のネットは設置すべきでない」「どこもかしこも防護ネットで隔離しなければならないというのは、自然に親しむというこのスポーツ本来の意義と合致しない」とする意見が一方ではある。

他方、「中国ではスキーはまだ新興スポーツで、滑る人もその時一回かぎりの人や初心者が中心。技術レベルも高くない。コースやゲレンデ設計ではそうしたことを考慮すべきであり、安全に配慮すればネットは必要」という意見もある。

議論の分かれるところだが、相次ぐ事故の発生を受け、河北省体育局は2017年2月、「河北省スキー場安全管理規範(試行)」を打ち出した。現在、崇礼の各スキー場は規定に沿って区域に応じたネットを設置、カバー率はほぼ9割に達しており、一部危険区域では二重に取り付けられている。

2017年10月の「中国スキー場管理規範」の二次改訂では、ネット設置を強制的な義務とはしていないものの、「ネットはスキーヤーの保護にきわめて重要であり、スキー場は実況に照らし、設置をしなければならない」との文言が追加された。また、ネットを取り付ける危険区域についての提言も付け加えられている。

問題は事故防止の面以外にも存在する。取材中しばしば耳にしたのは、国内のスキー場が救助活動の面で海外に比べ大きく立ち遅れているという声だ。

中国では、規定に従って各スキー場がパトロール救助隊を配備しているが、統一された基準や運用規範がないため、救助水準にばらつきがある。太舞スキー場の事故では、関さんはスキー場の救助方法に重大な問題があったとして、こう訴えている。「息子は衝撃でヘルメットが壊れ、頭頸部に重傷を負っていた。このような負傷者を救助する場合、まず頭頸部を固定してから移動させるべきなのに、今回の救助では必要な固定措置が採られず、そのままエアボートに載せられ、延々とコースを滑って下山した。この間に揺すぶられたことで二次損傷を引き起こした可能性が高い。発見された当初、息子は呼吸もあり、痛みを訴えることもできていたが、麓で待つ救急車に到着したときには、すでに心肺停止状態だった」。胡楊さんが救助されたときの状況も同様で、固定や応急措置はおこなわれなかったという。

【インストラクターの処遇改善と技術向上も急務】

スイスのスキー産業専門家で『国際スキー場レポート』の著者、ローラン・ヴァナ氏によれば、スキー場のハード面での安全対策はもちろん重要だが、「より肝心なのはスキーヤーへの教育だ」という。

しかし、大衆スポーツとしてのスキーの登場が比較的遅かった中国では、教育や訓練を担うはずのインストラクターが軽く扱われてきた。2013年1月に国家体育総局が「高危険性スポーツ種目経営許可管理弁法」を公布し、そのなかで初めてスキーを「危険性の高いスポーツ」として取り上げ、「経営者は経営期間中に規定数を下回らない社会体育指導員と救助員を配置するものとし、当該職員には有資格者を登用しなければならない」と定めた。

北京市スキー協会の李暁鳴主席は、「厳密に言えば、それまではスキー場に対する管理規範がなかった。2013年より、スキー場は5人以上の有資格インストラクターを備える場合にかぎり開業できるとする明確な規定がようやくできた」と語る。

中国でスキーインストラクターになるには、「社会スキー指導員」の認定資格を取得する必要がある。これは人力資源・社会保障部と国家体育総局が発行する就労資格証明書だが、「中途からその道に入った」インストラクターでも、数日間研修を受ければ試験に合格できる。

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