次期冬季五輪開催地の中国、急増するスキー場と国民の「安全リスク」

月刊中国ニュース    2018年3月6日(火) 20時10分

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平昌オリンピックも終わり、次期冬季五輪開催地・中国に注目が集まるなか、スキーヤーの事故が増えている。そこにはスキー場の安全対策、無茶をする初心者など、いくつもの問題がある。写真は北京南山スキー場で研修を受けるスキーインストラクター。

マジック・スキースクール創立者の張岩氏らは、かつて北京周辺のスキー場で調査をおこなったことがあるが、スキーレッスンを受けようと考えている人は、スキーヤー100人中わずか10人ほどだったという。「残り90人のほとんどが滑れない人たちだったのに、レッスンを受けないのです。料金が高すぎる、それに、お金を払ってもあまり専門的な指導を受けられないと感じているのでしょう」。これについて張氏は、これまではスキー人口が少なく、指導事例が不足していたため、中国のスキーヤーに合ったカリキュラムが作れず、もっぱらマンツーマンによる非効率な指導方法が採られていたうえ、その質を監督する人もいなかった点を指摘する。また、スキーは正規の訓練が必要なスポーツであるという意識の欠如や、国の制度面での整備の遅れも挙げる。

一方、スキー場側からは、こんな問題点も聞こえてくる。「中国国内のほとんどのスキースクールはスキー場に併設されており、インストラクターチームはスキーシーズンが終了すると解散、冬になると改めて招集される。そのため、長期性と安定性に欠け、収入も不安定。優秀なインストラクターは定着せず、よそへ移ってしまう可能性もある」。中国のスキーヤーの多くは初心者で、基礎が身についておらず、身体的資質の平均レベルも高くない。張氏は、人種が多様で身体的資質やスキーの基礎も異なる米国の一般大衆に対応している点で、米プロスキーインストラクター協会(PSIA-AASI)のトレーニングシステムが中国の国情に適していると考え、2014年より同トレーニングシステムを導入している。

このシステムでは、インストラクターに3つの等級があり、該当する試験に合格しなければ、協会が認可する各等級の免許を取得できない。「最大の長所は、大人には大人向けの指導法を用い、子どもは年齢に応じてカリキュラムを分けるといった細やかな指導をおこなう点。3歳から7歳までと12歳以上の子どもではカリキュラムがまったく違う」(張岩氏)。

インストラクターの専門レベルと指導基準は、主管部門も重視している。李暁鳴氏によれば、2016年12月の設立以来、北京市スキー協会の主な重点業務は、中国のスキーインストラクターのトレーニングと規範的な等級づけの推進であり、すでにPSIA-AASIのインストラクタートレーニングシステムを中国に合わせて改良し、関連基準を近く提示する予定だという。

一部の企業もインストラクターの問題に関心を寄せ始めている。前出のマジック・スキースクールでは、各国の野外教育プログラムや野外災害救助トレーニング、ヨット教育プログラムを取り入れている。インストラクターは冬季にはスキーを、夏季には野外学校やセーリングスクールで指導にあたることで、年間を通し安定した収入が得られるようになったという。

【初心者の多い現状では個々の自覚が肝要】

2017年初め、北京市第二中級人民法院(地方裁判所に相当)が、過去3年間のスキーに起因する人身損害賠償訴訟について統計をとったところ、負傷者の9割以上が初心者で、その多くはスキー歴2年未満であることが判明した。大多数が専門の指導や訓練を受けないまま中・上級者コースを滑り、負傷または衝突加害事故を引き起こしている。こうした事案の死傷者は80年代・90年代生まれが主で、一様にけがの程度が重くなりがちだ。7割以上に後遺障害が残り、足や臀部の脱臼・骨折のほか、重傷者には顔面や歯冠の深刻な損傷、頭蓋骨骨折などが見られた。

業界内の多くの見方によると、中国でスキー中の事故が多発している印象があるのは、スキーが近年急速に普及したことで初心者が多く、十分な安全意識が醸成されていないため、海外に比べてリスク係数がかなり高く感じられるからだという。

こう譬える(たとえる)人もいる。「車を運転するにはまず交通ルールを習得する必要があるが、スキーは誰でもできる。これは車の運転ができない人に車道を走らせるに等しい。つまり、高速道路の整備不良の問題ではなく、スキーをする人の意識や技術の問題だ」。

ヘルメットの着用は、頭部の負傷を30〜50%低減できることが研究で明らかになっている。「ヘルメットは命を守るもの。ほかの部分のけがは治療できても、頭部損傷は致命的」と張岩氏。かつて崇礼でヘルメットを着用する中国人スキーヤーは皆無に等しかったが、2015年に事故が発生して以来、崇礼のすべてのスキー場で「リフトに乗る際のヘルメット着用」が必須とされた。当初は反発する人もいたが、実施から2年が経過し、みなヘルメット着用に同意するようになったという。

スキーの滑走エリアには公認の「交通ルール」も存在する。国際スキー連盟が定めた世界共通の「スキーヤーとスノーボーダーの行動規範」である。そのおもな内容は、1)停止したり、人や物への衝突を回避したりできるよう、常にコントロールして滑走すること。2)前方の滑走者に優先権があり、後方の滑走者は責任を持って彼らを回避すること。3)コースの行く手を遮る位置や、上方から見えない位置で立ち止まらないこと。などである。

これらのルールはスキー場の至る所に張り出されているが、初心者はあまり気に留めない。スキー愛好家の多くは、スキー場に潜むリスクについて、口を揃えてこう話す。「中国のスキー場では、コースを勢いよく滑り降りながら『どいてくれ、曲がれないんだ!』と大声で叫んでいる人をよく見かける」。スピードや方向のコントロールもできず、ブレーキもかけられないのに中・上級者コースを滑りたがる初心者は「魚雷」と呼ばれる危険な存在だ。

張岩氏は、中国のスキーヤーの多くが自分の能力とリスクを正しく評価できていないと語る。氏によれば、国内の大多数のスキーヤーは「プルークボーゲンができて、停止ができる程度でどうにか滑っている」段階だ。

この問題に対し、北京市スキー協会は「北京市大衆スキー習熟度等級基準」を制定、スキー技能を9等級に分けて評価する取り組みを始めた。無料で等級認定テストを実施し、合格者には認定バッジを授与する。スキーの学習と実力レベルの把握、スキー場の安全管理強化をおもな目的としている。

実際にスキーをするときは、技術だけでなく、自分の体の状態をきちんと把握しておく必要もある。胡楊さんは自身の事故を振り返り、「転倒事故を起こす前にほぼ丸一日スキーをしていて、上級コースを滑り切るだけの体力がもうなかった。にもかかわらず、そのことを気に留めていなかった」と分析する。

事故から1年近く、つらい手術とリハビリを乗り越え、胡さんはほぼ完治した。後遺症も残らなかったが、腰に挿入された3本のボルトは一生はずせない。けがの直後は、スキー場の責任だと思い、強い憤りを感じたという。だが、今は考えを改めた。「安全意識が充分ではありませんでした。自分の能力と当日の体調をきちんと把握できていなかったことが、事故につながったんです」。またスキーをする気はあるのかと尋ねると、胡さんは答えた。「今シーズンは当然ありえませんが、来季については、はっきりしたことは言えませんね」。(提供/月刊中国ニュース)

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