<コラム>ニュース中国語事始め=微妙な違い?日本と中国の「福祉」について

如月隼人    2020年10月7日(水) 23時20分

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今回は中国語のニュースで使われる「福祉」という言葉を考えます。この言葉は、そのまま「福祉」と訳したのでは、どうもおかしなことになる場合があります。資料写真。

中国で「福祉」という言葉が日本語の影響で使われるようになったとしたなら、「福」にも「祉」にも「弱者支援のための公的扶助」という意味はないのですから、中国人が自らの感覚にしっくりくるような意味やニュアンスを込めて使いはじめたのだとしても、不思議ではないように思えます。

なお、複数の台湾人にも「福祉」の言葉の使い方を尋ねたところ、「『福祉』と『福利(fu2li4)』は一般的に互換性がある。『福祉』とは幸福や利益のことで、(中国語の)『福利』と同様に使われる」との説明が返ってきました。ただし使い方の習慣としては、「福祉」は抽象的で規模が大きい場合、「福利」は具体的で小さな規模の場合に使うことが多く、例としては「福祉」は「国民福祉(guo2min2 fu2zhi3)」「老人福祉(lao3ren2 fu2zhi3)」のように、「福利」は「福利金(fu2li4jin1、弱者救済のための支給金)」「員工福利(yuan2gong1 fu2li 従業員の福利厚生)」のように使うそうです。

日本の場合でも行政が行う事業の場合には「福祉」、会社内の制度ならば「福利厚生」と言いますから、日本と台湾で「福祉」と「福利」の大小についての感覚は共通しているのかもしれません。

中国大陸の場合には、行政としての事業についても企業の従業員への待遇についても「福利」の言葉が使われますから、状況に応じて「福祉」や「福利」と訳せばよいわけです。

なお、台湾人からは「『幸福』が一番大きな範囲、次が『福祉』、最も小さいのが『福利』」との説明もいただきました。「福祉」と「幸せ」をしっかりと結びつけて考えることは、大陸人も台湾人も同じであるようです。

日本語では複数の漢字で構成される単語について、各漢字の字義があまり重視されず、単語全体の意味が“一人歩き”する場合があります。中国語では逆に、単語の各漢字の字義を強く意識する傾向があります。

例えば、日本語の「名人」は、「ある分野で優れた技能を持っている人」ですから、「世間には知られていないが、優れた技で仕事を黙々とこなす名人」といった表現が成立しますが、中国人の語感では「名人」とは、その名が知られている人。だから、「世に知られていない名人という表現は、矛盾があるので成立しない」ということになるそうです。

日本語の「福祉」の場合には、「福」と「祉」の文字それぞれの字義がそれほど考えられなくなり、行政上の制度を示す言葉として特化してきたのかもしれません。

●ピンインの表記について:本コラムでは中国語を日本語の常用漢字の字体で表示しています。ピンインについては、ローマ字表記の直後に声調を算用数字で添えます。軽声は0とします。 u の上に2つの点を添えるピンインには v を用います(例:・東西 dong1xi0、・婦女 fu4nv3)

■筆者プロフィール:如月隼人

1958年生まれ、東京出身。東京大学教養学部基礎科学科卒。日本では数学とその他の科学分野を勉強し、その後は北京に留学して民族音楽理論を専攻。日本に戻ってからは食べるために編集記者を稼業とするようになり、ついのめりこむ。毎日せっせとインターネットで記事を発表する。「中国の空気」を読者の皆様に感じていただきたいとの想いで、「爆発」、「それっ」などのシリーズ記事を執筆。中国については嫌悪でも惑溺でもなく、「言いたいことを言っておくのが自分にとっても相手にとっても結局は得」が信条。硬軟取り混ぜて幅広く情報を発信。

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